日記を書くことすら放棄してしまったここ数日。二次創作や同人に心底嫌気がさして、自分探しの旅に出ようとしてました。なにせ、なにか書こうとすると吐き気までしてくるんだもの。さすがにヤバイというか、この状況では書きようがないと思って。どこか遠くに旅立ち、温泉にでも浸かってゆっくりしようと、割とマジに考えてた。
今思うと一週間も仕事休むなんて不可能だし、そもそも行く当てなんてなかったんだけど、とりあえず旅支度を調えて後は小田急ロマンスカーに乗ってから考えようとか思ってた。東海道線じゃなくて小田急ロマンスカーなのは、そっちのほうが近いから。芦ノ湖行きたかったなぁ。

それを取り止めたのは仕事が主な理由ではあるんだけど、もう一つは出発前に悲恋堂を訪ねたからで、認めたくないけどどうやら私はあそこの店主に借りを作ってしまったらしい。
悲恋堂に行くのは凄い久しぶりのことで、先月は25日の時点でハルカナソラひきこもりに入ってしまったから……なんだかんだと2週間以上ですか。義理を欠かすわけにもいかないと、「旅に出ます、探さないでください」口頭で伝えるべく、わざわざ出向いたわけです。よく考えると私も馬鹿なことをしているというか、精神が疲弊しきっていた証拠でしょう。自分でもなにやってるんだと思うけど、あのときはどこまでも真面目だったんだろう。
旅に出る旨を伝えると、店主は「なに言ってるんでしょう、この馬鹿者は」みたいな顔をして、理由を訊いてきました。特に隠すつもりもなかったし、あるいは聞いて貰いたかったのか、私はなにがあったかを事細かに話しました。それは半分以上が愚痴で、残りは全部泣き言でしかなかったんだけど、喋り出すと止まらないのね。店主は自分から訊ねたくせに、聞いているのか聞いていないのか、適当な相づちを打っては全部話すように諭してきて。まあ、悲恋堂の店主というのは二次創作を毛嫌いしてるし、同人というものを軽蔑しているからそこが気に食わなかったんだと思う。
一通り話し終えても私の気分がスッキリすることはなく、むしろ色々思い出してむかっ腹さえ立ってきたんだけど、自分にはどうしようもないことだった。店主に話したのは、HP経由で届いたメールの中に、「誰かに相談してみたらどうか?」という助言があったからで、もしかしたら無意識に相談を持ちかけていたのかも知れない。答えなんて、返ってくるとは思わなかったけど。
話すことは話したし、別に明確な助言や励ましを求めていたわけでもなかったから、店主の反応を見たら帰ろうと考えてたんだけど……いやはやなんともはや、次の一言はこれまでの悲恋堂語録の中でも一番強烈で意味不明だった。

「さて、それじゃあ私と一緒にドラえもんでも観ましょうか?」

キルヒアイス風に言えば、「私はまだ、この方のすべてを理解できてはいない」といった感じなのでしょうが、それほどまでに唖然としてしまった。なにがどうして傷心野郎の愚痴と泣き言を聞いた後に、ドラえもんへと繋がるのか。やはり常人とは思考や発想が違うというか、本人に言わせると「世捨て人ですから」になるんだけど、そんな世捨て人さんはさっさと店を閉じて、私を居間の方に引きずり込み、座布団やら茶菓子やらを手早く用意。「大長編、映画で良いですよねー」なんて訊いてきて、映画以外になにがあるんだよと思ったんだけど、どうやら80年代及び90年代の大晦日だよドラえもんと、夢気球のビデオまであるらしい。夢気球に至っては夏と冬の両方があるとか。私だって夏しか持ってないのに。
80年代の映画から選ぶらしく、「うん、これにしましょう」と店主が手にしたのは日本誕生。80年代では最後の一作で、興行収入も観客動員数も歴代映画のトップクラス、再放送も幾度化された人気作です。いや、まあ、嫌いじゃないけどさ。どうせ映画全部持ってるなら、なにを観るかぐらい訊いてきても良いんじゃないかなーと、そのときは思った。私は海底鬼岩城が好きなので。
次々に映画を観る準備が整って、いつから悲恋堂は茶の間で客に映画を見せる店になったのだと、私は呆然としてた。ポンポンと畳の上に敷かれた座布団を店主が叩いたんで、まあどうせ暇だし……と従うことに。我ながら意志が弱い。後になって店主にも言われたけど、私はもう少し自分を優先させたほうが良いらしい。

映画自体は何遍も観てるし、内容を知らない人もいないとは思うんだけど、様々な理由で家出することにしたいつもの面子が、人間がいないとされる7万年前の日本に自分たちのユートピアを作ろうってのが映画の序盤。この家出の理由ってのが本当に色々で、のび太はまあ家でも学校でも怒られてばっかりというお馴染みの理由なんだけど、ジャイアンは店番、配達、草むしりといった家の仕事に扱き使われるのにウンザリして、「俺は母ちゃんの奴隷じゃないっつーの!」と叫ぶんですが、「そういうことは、奴隷みたいに働いてから言うんだね!」と切り返されて家を飛び出します。いや、何度観てもこのときのやり取りは笑える。笑えると言うか凄い。
空き地にはスネ夫もいて、こちらは全教科に家庭教師をつけて朝から晩まで勉強三昧の日々を強制されそうになったことへの反発。最後に現れたしずかちゃんは……なんでしょう、スランプなのかピアノのお稽古が嫌になったそうです。なんか、しずかちゃんだけ取って付けたような理由ですけど、しずかちゃんはバイオリンだったりピアノだったりと、その時々で習い事が変わってますね。
ドラえもんは一番深刻というか、パパが旅行に行く会社の部長からハムスターを預かってきてしまい、ネズミに似たその姿に卒倒しそうになったから。まあ、家出するにも結構理由はあるものです。そこで人間のいない7万年前に逃避行を敢行するわけですけど、この下りを観ながら店主がニヤニヤと視線を向けてくるんですよ。嫌みかってぐらい。考えるまでもなく嫌みなんだろうけど、なんで店主がこの映画を選んだのか判った気がした。

到着した七万年前で、ドラえもんたちは自分たちだけのパラダイスというか、ユートピア作りを始めます。この辺りは夢一杯の内容で観ていて微笑ましいんだけど、ドラえもんの前半部分は本当に憧れる部分が多いというか、海底鬼岩城や日本誕生、雲の王国はずば抜けてると思う。
ユートピア作りも順調に進み、大根飯こと、大根を二つに割ると出てくる料理を食べる一同。これは大魔境の植物改造エキスに近いものがあるよね。ドラえもんの映画は、ジブリより食事のシーンが美味しそうだと思うんだがどうだろうか。どら焼きとカツ丼は大抵出てくるよね。スネ夫がステーキじゃなくてビーフカレーだったのが少し意外。
食事も終わって、造った家の前にデッキチェアを並べて日光浴。虹なんて架かっちゃったりして、大自然を満喫しています。

「ほら、しずかちゃんも言ってるでしょう」

のりしおをバリバリ食ってた店主が口を開いて画面を指さしました。丁度、大自然に満足していたしずかちゃんが「小さな悩みなんてどうでも良くなっちゃうわね」と言って、ジャイアンが「ここらで一回帰ってみるか」と提案し、みんなが同調するというシーン。
その瞬間に私が受けた衝撃というのは凄いものだった。軽く誇張はしたけど、要するに悲恋堂はこのワンシーンを見せるためだけにこの映画を選んで、実際に見せたわけですよ。なんという遠回りなやり方……それだけに虚を突かれたけどさ。

「人間ってのは、次々と沸いてくる悩みをすべて抱えられほど、大きな器をしてません」

店主が喋る。

「大なり小なり人は悩みを抱えていて、それらが全部解決するわけでもない」

店主が語る。

「だから、ある程度は捨てていかないと、人は前に進めません。重いものを背負って歩くにも、限度ってものがあるんですから」

偉そうなことを言っていますかね、と訊かれたから、別にと答えた。実際に偉そうじゃなかったし、むしろ昔のことと重ね合わせて自嘲気味だった。店主がまだ店主じゃなかった頃をよく知っているだけに、私は暗澹たる気分。
忘れてしまえよ、そんなこと。かなぐり捨てて歩けばいいじゃん。こういう発想が出てくるところが、やっぱり世捨て人のそれだよなぁと思った。私にはとても真似できないというか、そういう切り替えや切り捨てが本当に出来ないんだよね。

映画を観ながら、色々なことを話した。映画とは全く関係ない内容を、とめどなく、それこそ映画終わってからも話した。店主はしきりに一次創作、つまりオリジナルへの復帰を諭してきて、それによって気持ちを切り替えるべきだと言ってきました。お前が二次創作嫌いなだけだろうと思ったけど、私自身それしか残ってないと感じていたのは事実。
「大体、あなたに一人旅が出来るわけないでしょう。寂しくなって、すぐに帰ってくるのがオチですよ」
ケラケラ笑いながら、店主は私に無駄な旅路など辞めるように言って、この頃になると私も旅に出る気分も気力も消え失せてたから、素直に頷いてしまった。

なんというか、この日の出来事を文章で表現するのは無理だわ。私の頭の許容範囲を突破したというか、あまりにも理解不能な流れだった。一つ理解できたのは、悲恋堂に対して精神的な借りを作ってしまったと言うことで、これはかなり巨大なものだと思う。今年中に返せるか、とりあえず悲恋堂ありがとう。今度スパムでも持って行くから。一緒に焼いて食べましょう。
年内に一次創作を再開させるつもりはなかったけど、準備だけはしておくべきなのかも知れない。同じ逃げるにしても、せめて正道を歩きなさいと言われたし。どうしようかな、そろそろ寝かせているプロットも熟してきたのだろうか。候補はいくつかあるけれど……まあ、その前に同人やるかな。約束は約束、やると決めたことを投げ出すほど、弱者になったつもりもないから。逃げようとはしてたけど。悲恋堂のおかげで逃げ出さずに済んだよ。

ここ数日の日記で原点回帰も済ませたから、後は書きます。書きまくります。自分に出来ることだけは目一杯、精一杯やりたいから。そのための努力は怠らないし、テンションやモチベーションも幾分か戻ってきたから。考えすぎは身体に毒とは、本当によく言ったものです。

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