私の創作上における恋愛観の究極はアスメイです。以前、D・N・ANGELに触れた際にも書いたと思いますが、私の中で理想としている恋愛関係は、恋と愛の移り変わりであり、始めに出てきた女より、後から出てきた女とくっつく方が好きなんですよ。これはなにもNTR好きというわけじゃなくて、例えばメモオフ2ndでは伊波健は白河ほたるとくっ付くべきだと考えていたり例外もあるんだけど、基本的には貫く愛より移りゆく恋の方が好きです。

アスメイ、つまりアスラン×メイリンのカップリングは、私が好ましいと思う恋愛関係の要素をすべて持っていて、デス種でアスランが最終的にメイリンへ落ち着いた流れは見事だと思うんですよ。昨日の日記でルナマリアとミーアに触れたわけだけど、この二人とメイリンの違いは、即ちアスランが相手の中にある自分への気持ち、恋愛感情を認識しているかどうかなんです。
メイリンは当初、アスランという人間にそれほど興味を持っていませんでした。ルナマリアと違って英雄としてのアスランというものに対し、事前知識のようなものを彼女は持っていなかった。だからルナのように積極的に接することはなかったし、彼が自分たちの味方であることを理解したのも、おそらく15話からなんでしょう。仲間として、フェイスというトップエリートになった舞い戻ってきたアスランにメイリンは興味を抱きますが、それはまだまだミーハーな所を抜け出せるものじゃなくて、姉であるルナマリアほど積極的ではない。同じパイロットではないメイリンにとって、アスランの情報とは資料がすべてであって、英雄としての実感が湧きにくいんですね。
つまり、ルナマリアはアスランを英雄としてみていたけど、メイリンはエリートとしてアスランを見ていた。この時点で姉妹の認識に差があるわけで、これが結構大きいものとなってくるわけです。近いほど見えないものがあるという奴で、ルナマリアは戦場における英雄としてのアスランは強く意識していたけど、戦闘で絡むことが少ないメイリンはさほどそれを重要視していない。36話の回想もそうですが、メイリンはアスランが苦悩している姿をちゃんと見てきているんですよ。SUIT CDのVol.9でも補足されましたけど、メイリンはアスランの英雄やエリートとしての一面以外をちゃんと見てきた。それはルナも同じかもしれないけど、メイリンは姉ほどアスランに近くなくて、より客観的な視線でアスランを見始めていたんですよ。21話のような場面に遭遇したわけではないけど、メイリンは意外と早く自分の中にあるエリート像ではない、アスラン・ザラという個人を観察するようになるんです。
それは石田彰が分析するように姉に対する張り合いもあったんだろうし、19話の時点では間違いなくそうだった。でも、メイリンはアスランの中にある弱さを見透すことが出来ていた。かつての仲間との間に苦悩し、孤立感を深めていくアスランは、エリートなどではないただの人間であると、ルナマリアがショックを受けたアスランの人間臭さに、メイリンは逆に親しみというか、距離感の縮まりを感じたんじゃないでしょうか? 遠いと思っていた人が、実は結構近かった、みたいな。

メイリン役の折笠さんは、最初はミーハーであり姉との張りあいから始まってはいるけど、それが物語を進めていく内に、恋へと変わっていったのではないかと考えていて、それに関しては完全同意します。ただ、最初から好意を持っていたミーアはともかくとして、メイリンの残念なところはその変わっていた部分が描写しきれておらず、いささか唐突感があるところでしょうか。第3クールのOPとか、いきなりメイリンが加わってきたと思った人も多いんじゃないかな。
ただ、メイリンがアスランに対するヒロインであるという事実は揺ぎ無いものがあり、それに関しては割と明確な解説ができると思います。そもそも、ヒロインでないのなら一緒に脱走する必要がないわけで、言ってしまえば脱走の手引きをするだけでもいいんです。手伝うだけ手伝ってさようなら、付いていかない話の流れだって、作れないことはないでしょう。
36話であるアスラン脱走は、一見するとミーアとメイリンの対比になっています。差し出された手をつかめなかった少女と、その手をつかんだ少女。しかし、もっと言えば手を差し伸べられなかった少女、ルナマリアもいるのです。
自らをラクスたらしめるためにアスランを求めたミーアと、自分の知らぬところでアスランに行動を起こされ、すれ違うことすら出来なかったルアナマリア。どうしてルナマリアでは駄目だったのか? 当時、アスランに対する描写が少なかったメイリンに対し、曲がりなりにもルナマリアはアスランに恋する少女でした。アスランの手助けをするなら、むしろルナマリアの方が適任だったのではないか? という意見も聞かれたほどです。
けれど、あの状況下にいたのがルナマリアだったらどうでしょうか? 彼女は実のところメイリン以上にアスランが追われる理由を知っている少女ですが、であればこそアスランに脱走することを進めなかったのではないかと思います。彼女にとってアスランはザフトの英雄であって、そのアスランがザフトを離れるというのは想像が出来なかったんじゃないかと。故にルナへアスランが手を差し伸べたとして、彼女はその手をつかむだけではなく、逆にアスランを引き戻そうとするのではないかと、そう思うのですよ。ミーアとは違った意味でね。だからこそ、アスランの手がルナマリアへ差し伸べられることはなかった。

メイリンがアスランと一緒に脱走した理由はなんでしょうか? 話の流れ的には成り行きだけど、彼女がアスランを助けた理由は本人にも不明確でした。
「殺されるぐらいなら、行った方がいいです」
メイリンは保安部の人間がアスランを銃殺する可能性に言及していたことを知っており、アスランがジブラルタルに居続ければ殺されてしまうかもしれないと考えています。それは追跡してきた例がすぐさま発砲したことで現実のものとなるのですが、アスランを死なせたくなかったと考えれば、咄嗟の行動にも理由は付きます。
それでもアスランにとってメイリンはほとんど話したことがないルナマリアの妹であって、どうしてそこまでしてくれるのか、それが理解出来ませんでした。危険を冒してまで何故……けれど、メイリン自身は自分の行動理由がわからないという。
互いに自分の気持ちを認識しない中で、もっとも簡単な言葉でそれを表現し、アスランへと伝えたのは意外にもカガリでした。
「お前のこと好きなんだろう、きっと」
アスランがその言葉になにを思ったのかは不明ですが、およそ恋愛感情というものに鈍感なアスランが、他でもないカガリから自身に向けられる強い好意を認識させられたのです。この時点で、アスランはメイリンが自分に恋愛としての好意を持ってくれている存在だと気づくわけですね。半信半疑だったかもしれないけど、そうしてくるとメイリンがどうして自分にここまでしてくれたのか、一応の納得が行くわけですから。
では、アスランにとってのメイリンとはどういう存在だったのでしょうか? これまでは単に艦橋にいるオペレーターで、ルナマリアの妹でしかなかった。じゃあ、これからは? 制作がアスランとカガリのことをどう思っていたのかはアニメ誌のインタビューが詳しいですが、監督と脚本家はアスランとカガリの恋愛関係を否定しています。恋愛感情そのものは、まあ、種の頃のこともありますし否定出来るものではないと思いますが、それにしたってそれほど強いものではない。アスランにとってメイリンは弱い立場から自分を慕ってくれる存在であり、これまでのカガリやルナマリア、覚醒したラクスなんかとは全然違うんですよ。アスランにとってメイリンは守るべき弱者であるにも関わらず、逆に自分が助けられた。アスランは、おそらく初めて他者に寄り掛かることを知ったのではないか? ザフトから逃げるという、ある種アスランの弱さの発露を否定せず、彼と共に逃げてくれた少女、それがメイリンなんです。
アスランは自分がそれほど強い人間であるとは思っていなくて、むしろ人並に弱さも持っています。けれど、カガリはそもそも人として強くあろうとしているから、アスランはそれにあわせて自己を律する必要があるし、弱さや甘えを見せることが出来ない。カガリは自分の弱さをアスランにぶつけることが出来ても、アスランの弱さを受け止めることが出来ないんですよ。それはカガリが大人の男性に囲まれて育ってきたからで、アスランの中にある弱さに気づくことが出来ない。この辺りは、アスランを強い英雄として見ているルナマリアと大差ありませんね。
メイリンは既にトップエリートなどといった偶像からは覚めきっていますし、自分のことは自分で決められる判断力を持っています。それはアスランを保安部から助けた時もそうですし、格納庫でアスランから差し出された手をつかんだ時もそうです。状況に流されているように見えるメイリンですが、よく見るとその場その場の決断は、全部自分でしているんですよ。42話においてAAでアスランの傍にいることを決めた時も。
カガリとメイリンの最大の違いは、アスランのことをどれだけ考えているかということです。カガリだってなにも考えていないわけじゃないけど、彼女にはオーブという国のことが第一であり、その次に元首としての自分のこと、アスランのことはそうした諸々が済んだ後、初めて考えることが出来るんですよ。言ってしまえば、メイリンは身軽なんですね。身軽に、けれどしっかりアスランを見つめることが出来る。36話の回想も、描写不足を補う意味があるにせよ、どれだけメイリンがアスランを見てきたかという表れですから。
気が強い女の子をアスランが好まないというのは、奇しくも石田彰の趣味と似たものがありますが、メイリンはアスランを立てる娘だからね。カガリは築けるはずもない対等を築ことうして失敗し、ルナマリアもまた対等に近いパートナーを目指していた節がある。ミーアなんて、婚約者という存在自体が対等を示していましたから。

アスランがそうした少女たちをどのように感じていたのか、嫌いではなかったにせよ、そこまで好きだったのかどうか、45話でカガリとの関係が終わったとき、アスランはどことなく晴れやかでした。恋愛という縛りがあったからこそ複雑化していた関係性が解消されたことで、案外肩の荷が降りたと感じたのかもしれませんね。二人の関係に恋愛は必要なかったと、そう思ったのかもしれない。確かに、別に好き合ってなくても嫌い合ってなければいいわけですし。
アスランにも弱いところがあって、彼は誰かを守りたいと思うと同時に、誰かに縋りたいと思うことだってある。癒しが欲しい、落ち着きたい、これは脚本家と石田彰が言っていたことですが、本質的にはシンのそれと代わりはないんですよ。想い出の中のマユ、守るべき存在のステラ、傷の舐め合いのルナ、手当たり次第に女性へ縋っている傾向があるシンだけど、それは彼が弱いからで、彼にはルナの持つある種の強さが必要なんです。
アスランの場合は、プライドがそれを邪魔した。彼は自分の弱さを意識しながら、それを発露させることを避けていた。けれどメイリンという、自分の背中を支え、安らぎを与えてくれる存在に出会ったことで、アスランは癒しを得ることが出来た。メイリンに自己主張というものがないわけじゃないけど、決して声高でもないし、間違った判断をする娘でもない。
カガリやルナと違って、急ぐ理由がメイリンにはないんですよ。前者はともかく、後者のルナは自分とアスランの間にパイロットしての差があることを知っているから、それを埋めるためにも積極的にならざるを得なかった。しかし、パイロットではないメイリンにとって、それは埋める必要がない差であって、また、アスランが女性に求めているのもそういうのじゃないんですよ。
アスランがメイリンに感じているのは責任感が強いんだろうけど、それと同時に自分が守るべき存在として彼女を見ているんですね。言ってしまえばメイリンを弱い存在だと思っているんだけど、メイリンもまた自分が弱い存在であることを知っている。だからこそ、メイリンは強さを主張しないんです。弱いなら弱いなりに出来ることがあると、それが分かっているからこそメイリンは公私に渡ってアスランをサポートすることが出来た。まあ、アスランの傍以外に自分の居場所がなかったからでもあるんだけどさ。

劇場版が果たして公開されるのかはともかく、私はアスメイままで行って欲しい。石田彰があそこまで言ってるんだし、もうメイリン以外はあり得ないでしょう。カガリにアスランは必要ないけど、アスランにメイリンは必要なんですよ。
FINAL PLUSのEDがそうだったけど、メイリンはアスランから一歩下がって付いていくことの出来る少女です。あくせくしなくていいんですよね。カガリなんかは常に先へ先へ、アスランよりも前に行こうとするから、それに合わせるのが大変だった。けれど、メイリンは違う。アスランの一歩後ろにいて、彼が迷ったきや、立ち止まってしまいそうになったとき、そっと背中を押して、支えてくれる。強引に引っ張るわけでも、力強く押し出すわけでもない。メイリンとは、そういう少女なんです。
出来る事ならアスランにはこのままメイリンとくっついて欲しいと、切に願います。

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