貴方の時計はアンティーク
貴方の時計はアンティーク
昨日の書いたアニメ版ヨスガノソラのルート分岐型のゲーム的構成法だけど、説としてはそれなりに支持があるみたいですね。まあ、縋るものでもないとやってられないという心境の人が多いんだろうけど、リセット式ですら最悪の状態よりはマシぐらいにしか受け入れられていないのが現実なんですが。仕方ないからそれで妥協しよう、なんて思われている時点で手法としては失敗していると思うけど、それについてはまた後で書きます。今日の日記はルート分岐説の捕捉として、現状分かっている限りのアニメ版ヨスガノソラにおける時系列について、ちょっとした考察をしてみようと思います。
アニメ版ヨスガノソラは、作中の日付と時間が分かるシーンが多々存在します。それは携帯の画面という形で視聴者に示されるもので、携帯の電波が届かない地域という設定があった割には、かなりの数で多用されています。

一般的に日付というか日時を明確に伝えている作品というのは、それほどありません。例えばミステリーなど、情報として視聴者に必要な場合のみ提供されるのみであり、所謂美少女アニメでは見られる光景ではないでしょう。
では、ヨスガノソラで日付がハッキリと示されているのは何故なのか? それはその情報が視聴者に対して必要だからであり、明確にしておく理由があるからです。簡単な話、ヨスガノソラの5話が放送された時点で、ハルもしくは穹が携帯を開いたとしましょう。その時点で、日付が4話ないし3話よりも前になっていれば、巻き戻しは完了し、ルート分岐のロードが行われたというわけなのです。故にアニメは作中のそこかしこに日付や時間が明記されているわけで、まあ、一種の伏線みたいなものかな。ヨスガノソラの原作自体は特に日付システムがあるわけじゃないんだけど、エロゲとかギャルゲはしっかり設定されてることが多いでしょう? つまり、如何にもゲーム的な仕掛けとして、これらの描写は散りばめられているのでしょう。

それじゃあ、ここで現在分かっている限りの時系列を書き出してみましょう。まず、第1話においてハルと穹が奥木染に引っ越してきた日ですが、これは穹がハルに送ったメールから6月20日であることが分かります。さらにメールが届いた時刻が14時44分であり、少し前に穹が「10分以上歩いている」と言ったことから、2人が奥木染に到着したのは6月20日の14時半頃ということになります。これについては間違いないはずです。
次に携帯画面が映るのは、穹が『シカトすんなよ!』というメールを送ろうとしていたシーンで、メール自体は結局送らなかったようですが、時間表記は18時53分となっています。続く、ハルが洗濯物と一緒に忘れた携帯を確認するシーンで日付も出てきますが、そこには6月22日という表記が。この時点でハルと穹が奥木染に来てから2日ほど経過していることが視聴者には示されているのですね。
そして、穹がハルに制服の採寸をしたいと言いだしたのはその日の深夜ですから、6月22日ないし6月23日の0時過ぎであることは確かなはずであり、このことから第1話「ハルカナキオク」は、6月20日から22日or23時深夜までの話ということになります。
さて、ここからは追記となりますがアニメ版ヨスガノソラは西暦何年の話なのでしょうか? これが分かれば曜日の特定も容易であり、時系列を調べる上でさらに詳しいものが作れます。では、これを調べることは可能なのか……結論からいうと可能です。まず、前提としてハルと穹が引っ越してきたのが日曜日であるとしましょう。日中に瑛が巫女服で買い物に行っていたり、渚さんが私服で車に乗っていることから、休みであることは間違いないと思います。委員長は役職上、なにか学校に仕事でもあったということで。
穹の持っているようなスマートフォンが発売されたのは2007年以降であり、つまりここ3年間のカレンダーを引っ張り出してきて、作中の休日と平日に合致する年があるのなら、それがヨスガノソラの明確な作中時間となるわけです。そしてそれは、2010年がもっとも似つかわしい。細かく時系列が割り振られた話を作る上で、制作側がもっとも多用する資料はカレンダーのはずです。矛盾が生じないためにも実際のカレンダーと照らし合わせるのが一番いい方法ですし、作中時間を現代とすることはアニメに置いてはなんら珍しい話じゃありません。そもそも、原作で西暦が明示されてるわけじゃないしね。
アニメ版ヨスガノソラは西暦2010年6月から始まっている、という考察は荒削りながら確定要素が多いのではないかと思う。

次に第2話ですが、最初にハルが携帯を開くのは通学中、スーパーの特売サイトを見ているシーンで、特に日付が分かるようにはなっていません。ちなみにどうして奥木染にあるような小売店がネット上にサイトなんて持っているんだという疑問については、私の中でスーパー大木奈は地方ローカールチェーンであると結論づけました。チェーン店ならHPぐらいあるでしょうし、各店舗の特売情報ぐらい載っているでしょう。
話を戻して、その日他に携帯が出てくるのは夕方になって穹がハルにメールを送ろうとしているシーンで、日付は分かりませんが18時22分と表記されています。この日が穹が採寸をしたいと言いだした日の翌日ないし翌朝なのだとすれば、6月23日の18時22分というのが判るはずです。そして一気に時間は飛んで、蚊のイベントが起こる朝。穹はハルに「もう、10日」とぼやきます。制服を作ると決意してから10日ならば、7月3日程度になっていることが推測できる……のですが、これは違います。何故なら、7月のカレンダー見れば分かりますけど、7月3日は土曜日なんです。翌日から穹が登校を開始することを考えれば、この日が3日というのは明らかにおかしい。では、これはどういうことなのか? 穹のいう「もう、10日」が制服を作るためハルに採寸をして欲しいと言ったときから始まっているのだとして、それが22日の夜中なのであれば、なんとか説明をつけることは可能です。22日の10日後は7月1日で、カレンダー上は木曜日、平日です。翌日の金曜日にプール掃除があっても問題ないですし、つまり「もう、10日」の10日後は7月1日と断定できるのではないか? 後半において、ちょっとだけ無理が出てきますけど。
蚊をどうにかしたらしいハルが学校に行ってから、何故か夕方に穹が電話を掛けようとしているシーンが挟まれます。放送した際にも気になってはいたのですが、時間表記を見ると18時42分となっており、普通ならハルが帰宅していてもおかしくない時間です。しかし、次に切り替わったときは日中、ハルが学校で体育の授業を受けているシーンに戻っており、どうみても夕方ではありません。私は何故このようなカットが入っていたのかずっと不思議だったのですが、仮にこれがルート分岐システムにおける時系列の入り乱れを示唆しているのだとすれば? あり得ない話ではないでしょう。わざわざ夕刻のカットを入れたのは、それらに対する暗示なのだとすれば……既に2話の時点で、仕掛けは始まっていたということか。

瑛から蚊帳を貰って帰るというハルのメールが穹に届いたのは15時34時です。その日の内、つまり7月1日中に貰ったと考えるのが普通ですし、時間的に昼休みではなく放課後でしょうから、この時点でハルは学校を終えて瑛の家に向かっていると思われます。けれど、先程穹がハルに電話を掛けようとしたのは18時42分であり、3時間以上の開きがあります。春日野家から瑛の家が多少距離があるのは分かりますが、蚊帳を貰うだけで3時間も掛かるものでしょうか? 確かに伊福部商店でアイスも買ってましたが、帰りは渚さんの車に乗せて貰いました。
そもそも、渚さんが春日野家へと来たのは18時よりも前のはずです。何故なら、ボタン付けをしている渚さんを待つ、父親の秘書兼運転手である月見山さんの時計の盤面は17時となっているから。穹が電話掛けようとした時間まで1時間42分もあるわけですが、ボタン付けてアイス食べただけの渚さんがそんなにも長くの間、春日野家にいたのでしょうか? なにかしらの予定が詰まっている状態で1時間半も友人の家に上がり込み、あまつさえ運転手を待たせている。まあ、運転手が待つのは当然かも知れませんが、明らかにおかしい描写です。仮に、最低でも1時間ぐらいはいたとしましょう。それでも時刻は18時頃のはずですし、穹は家にいるはずのハルへ電話を掛けようとしたことになります。直接言いづらいことがあったのならメールでするはずだし、電話は掛けないでしょう。
けれど、更に矛盾が生じる光景として渚さんが春日野家から帰る際、既に辺りは暗くなっているのです。夕日は沈み、明らかに夜です。渚さんが1時間42分以上春日野家にいたという過程を排除するなら、あの18時42分にハルへと電話を掛けようとした穹はなんなのか? 知らない女を家に上げて、楽しげに話しているハルに電話で妨害しようと思ったという可能性もあるけど、それなら日中の間に挟む理由がないし、同じ日の別ルートに存在する穹という考えは、果たして出来るのか。日中の間に挟まれる夕刻の描写、それが本当に、別ルートへの入口なのだとすれば……いや、面白いじゃないですか。
穹が学校に通い出したのは制服が出来た翌日なので、7月2日ということになる。そして、この日の体育はプール掃除であり、その際にハルが瑛と渚さんの秘密を知ってしまうところで、第2話は終了します。
このことから、第2話「アキラハズカシ」は、6月23日から7月2日までの話ということになるわけです。

第3話は前回からの続きですから、日付はまだ7月2日です。夕方、何故か一人で帰路についているハルを渚さんが追ってくるわけだけど、そういやなんで渚さんはジャージの一つも穿いてないんですかね? いくら日常的に体育でブルマを使っているとはいえ、渚さんのような良家のお嬢様がブルマ姿で生足晒して歩いているなんて考えにくいし、いくら奥木染だって冬は寒いんだからジャージぐらいあるでしょう。ただのサービスシーンだと行ってしまえばそれまでだけど、ちょっとこの辺りは甘いよね。エロに特化しようと単純なところを忘れてしまっている。
穹に兄妹云々を訊いたのはその晩だろうし、ハルと渚さんが学校で再会したのは翌日、7月3日と言うことになります。土曜日ですが、公立にしろ私立にしろ土曜授業があるところはありますし、渚さんのぎこちなさから休みを挟んでの再会とは考えにくい。ここで亮平が「今度の休み、暇ある?」とハルたちを海に誘うわけだけど、7月にある祝日は海の日だけで、これは7月の第3月曜日と下旬です。3日から数えると随分先であり、ここは日曜日と仮定するのが普通でしょう。海に行った日が明確に7月の何日であるのかは残念ながら分かりませんが、後々の言動と照らし合わせると翌日である7月4日の日曜日ではないでしょうか? ただ、これが正しいとすれば「今度の休み、暇ある?」と訊いてきた亮平の言動はおかしい。明日が休みなら、「明日の日曜、暇ある?」と訊けばいいのだから。けれど、いくつかの状況から照らし合わせると、4日の日曜日以外には考えられない。
海水浴から何日か経ち、穂見学園の昇降口前で穹を待つハルの元に、とうの穹からメールが届きます。友達と帰るという文面は前にも書いたからともかく、記載されている日時は7月15日の午前10時26分です。10時半前に帰れるというのは、随分早いと思いませんか? 午前授業だってこんなに早くないだろうし、時期的に考えて穂見学園ではこの日が終業式だったと考えていいでしょう。少し早いような気もしますが、最近はそんなものなのかも知れません。瑛に振られたという渚さんがハルと一緒に帰るわけですが、ここで大きな矛盾が発生します。既に気付いている方も結構いるかと思いますが、これは凄いです。
話の流れから、ハルと渚さんは帰宅路からそのまま瑛の神社へ赴き、祭りの準備を手伝ったというのは問題ないですよね? お互いに鞄を持っていますし、一度家に帰っているという描写もない。前述の通り終業式だと仮定すると、別の日の場合、制服で鞄持っていることがおかしいはずです。なのに、それなのにですよ? 準備を手伝う渚さんの携帯に着信が入り、それは父親の秘書である月見山さんからで、繰り返すようですが、この日は7月15日のはずであり、途中寄り道もしましたが午前中であることは間違いないはずだった。
けれど、月見山さんからの着信は7月29日の午後16時24分であり、最後にハルが携帯を見たときから日時は14日と6時間ほど経っているんです。これって一体、どういうことなんでしょうか? 百歩譲って違う日なのだとしても、穂見学園は7月29日になっても夏休みではないということなのか。私学ならあり得なくはないけど、普通は中旬ないし下旬の最初からではないかと。もちろん、ミスという可能性もあるけど、散々時系列の入り乱れを行ってきたアニメ版なら、ここにも深い意味があるのかも知れない。

まあ、ミスだとは思うけどね。翌日になってハルが「先週って、海に行った日だよね?」と呟いてますし。海に行った日は7月3日から一番近い休みのはずであり、どうしたって7月29日の先週にはならないでしょう。24日間と、3週以上あるんですから。このことから、ハルと渚さんが瑛の家で祭りの準備を手伝ったのは、やはり7月15日ということになり、その翌日だから7月16日ですか。そして付け加えると、海へ行ったのは7月15日から数えて先週に当たる日です。週というのは日曜日から始まりますので一番近い休みである11日は今週となり、先週ではありません。単純に先週の日曜日と考えるなら、一週戻って7月4日ですから、海水浴はこの日に行われたのではないかと、そう考えるところです。ただ、穂見学園が土曜授業を実地しているとして、それが隔週とかだったら土曜日も休みの日である場合があるし、そうすると10日も候補には入るんだけど……さて、どうなのかな。
後のシーンには携帯なんて登場しませんけど、日付を明確にすることは簡単なことです。だって、既に分かってるんだし。ハルと渚さんが、なんですか、デートへ行ったのは7月16日のことであり、キスをしたのも同じ日ですよ。
第3話「ツカズハナレズ」が、7月2日から7月16日までの話と断定するには大きな矛盾がありますけど、7月29日が単なるミスなら、これが正解だと思う。
そして第4話へと続くわけだけど、いやはや、こうも数字ばっかりだと色々と混乱してしまいますね。最後になりますが、軽くまとめてみましょうか。
第1話「ハルカナキオク」→6月20日~6月22日
第2話「アキラハズカシ」→6月23日~7月2日
第3話「ツカズハナレズ」→7月2日~7月16日

一応、ハルと穹が奥木染に来てから1ヵ月は経っていないわけか……つまり、アニメ版ヨスガノソラが本当にルート分岐型の構成をしているなら、5話の時点で日付が7月4日まで戻ればいいわけかな? 穹の場合だと、6月22日ないし23日の深夜というわけか。それこそゲームのように、渚さんルートを終えたら、セーブポイントからロードして再開するんでしょうね。
ここまで細かく日付や日時を細分化できるとは思わなかったんだけど、やってみるものです。普通のアニメでは、まず出来ないんじゃないかな。ヨスガノソラのアニメが、日付に対して異様な拘りがあるのは、もう疑いようがない。

面白い手法だとは思うよ。誰しもこういう風にしようかなと思ったけど、なかなか出来なかったことを思いきってやってみたというだけあって、手法そのものは確かに良い。問題は、それがヨスガノソラという作品にあっているのかというだけの話でね。制作側のいうヨスガノソラという作品を全部楽しむというコンセプトには適しているんだろうけど、それを受け入れている人があまりにも少ないというのが、今の現状であり状況なんじゃないでしょうか? 何回も書いた気がしますけど、制作側が作ろうとしているものと、ファンが求めているものが違いすぎるんだよ。
全然話は変わるようだけど、私は以前とある商業作家にこんなことを訊いたことがある。「読者の反応で、一番ショックを受けるのはなにか?」と。普通なら作品に対する暴言や、作者自身に対する誹謗中傷と思うけど、その人の答えは違った。作家はこう言いました、「もっともショックなのは、反応されないことだ」と。

「例えばノリノリで書いている文章があるとして、ミステリーならトリック、バトルものなら熱い展開かな? とにかく自分は自信があるわけよ。そのシーンを書くためにこの話書いてるってぐらい。こんなこと考えつくなんて、自分天才なんじゃないかって思うほどノリに乗ってるわけ」

けど、それがもし作者だけだとしたら?

「自分が一番自信のある場所が、『ふーん』とか『で?』とか薄い反応で、特に盛り上がってもなければ、楽しんですら貰えない。それが一番ショックだね。しかも、実際に発売されて読者の反応が見られるまで、自分の中ではそこが作中で一番最高のシーンないしトリックであるわけだから、面白くないはずがないって思い込んでるのよ。けど、現実ではそうじゃないんだ、面白いものとしては受け入れて貰えないんだって、後から実感させられるとガックリと来る。それで、自分は大して面白いとも思ってないシーンやキャラが評価されたりするんだから、小説ってのは分からんね」
私はプロ作家じゃないけど、この言葉には大いに納得してしまった。確かに、自分の意図が作品を通して読者に伝わらないことほどショックなことはないだろうし、自分の中で最高と思っている展開に面白味を感じて貰えなかったというのは、単なる感性の違い以上に自信をなくしてしまうのではないだろうか。しかし、私がこの発言で今回重要視したいのは、なににショックを受けるかじゃない。問題は、作者が読者の反応を見るまで、該当部分を最高に面白いと信じていたことです。今もそう思っているのかは定かじゃないですけど、これは結構、危険な錯覚です。そして、その危険な錯覚をアニメ版ヨスガノソラのスタッフは抱いているのではないでしょうか?

徳島のマチアソビで私が今後の展開や、BDとDVDにおける収録話数の違いについて尋ねとき、スタッフ側は「それを明かすと面白くなくなってしまう」みたいなことを言っていました。ありがちな回答ですが、少なくともヨスガノソラのスタッフは今回のルート分岐型の構成法や、3話までの流れなどを面白いと思ってやっていたことがわかります。
現実はどうでしょうか。スタッフが面白いと思った仕掛けや展開は、ファンにどんな風に受け止められたのでしょうか? 手法の是非はともかく、私にはとてもじゃないけど、凄く面白いといって面白がったり、楽しんでいる人が沢山いるようには見えません。まあ、それなら妥協しなくもないと、渋々といった感じで受け入れている人ばかりなんじゃないか? スタチャだって新しいことをやる以上、手放しで喜ばれるなんて思ってはいないでしょうが、現状あるのは大部分で否定のみ。これは、さすがに予想してなかったんじゃないかな。

第3話が何故荒れているのかは、昨日の日記に書いたとおりハルを軽視したことが原因だけど、それが理由に批判や否定が巻き起こるってことは、スタチャがやろうとしている手法は既に使えなくなってるんですよ。だって、どう考えてもハルを犠牲にしないと出来ないんだから。ハルが無個性の、どこにでもいるエロゲ主人公だったら良かったんだろうけど、ハルは穹に次ぐ人気の持ち主。ただの主人公じゃありません。それを理解していたのなら、もっと別の方法も取れたかも知れないのにね。まったくもって、残念な話です。

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