冬コミの原稿を書いている最中に、なんとなくつけた夜のロードショー。気づけば惹き込まれるかのように画面を見つめていた。一言でいえば、まあ、ズルイ作品だと思う。死という究極のテーマを殊更明るく書いて、それに向きあう二人の男の最期の時をハチャメチャながらもテンポよく、丁寧に描いていたと思う。泣きはしなかったけど、なんだろうね、このほろ苦さは。これを羨ましいと思うのか、それとも悲しいと感じるのか、簡単な内容であるくせして、そこある深みはやっぱりテーマのなせる技なんだろうか。名優二人の共演で、演技の上ではあるにせよその掛け合いは本当に見事だった。

話は近頃体調を悪くして病院で検査を受けていた自動車修理工と、その病院の経営者で突然体調が悪くなった二人の初老男性が相部屋になったことから始まる。下町の一般庶民と大統領さえ一目おく大富豪の出会いは、第一印象こそ最悪であったが、対照的な二人はいつしか交流を重ね、死期が近いという共通点を見出したときに手を取り合って自分たちの余生を楽しむ旅に出た。やりたいことリストという死ぬまでにやっておきたいことを箇条書きしたものを手に、残りの人生を如何に楽しむか、その挑戦を始めたのだ。
2人は6ヵ月、長くても1年後には死ぬ運命にあるというのに、なんともまあ生き生きとしていて楽しそうなんだよね。旅をする中で道楽や娯楽に金と時間をひたすら費やし、笑い合い、助け合い、人生最後の数ヵ月を充実したものにしようとしている。
旅行中の2人は本当に楽しそうな笑顔を見せてるんだけど、これって普段からこうだったわけじゃないんだよね。油にまみれて家族のためだけに働いてきた修理工と、家庭に失敗して仕事と結婚するしかなかった富豪ですから、普段からこんな爽快な笑顔を見せられるわけがない。死を間近にしての清々しさとでもいうのか、私みたいな若輩者には及びも付かない雰囲気が漂っていたと思う。
でも、不思議とこんな余生を送りたいとは感じなかった。そもそもこの話は大富豪の友人が出来ないことには成立しないし、そういった意味では現実味に欠ける部分も多い。それを違和感なく表現出来ているのは役者や脚本の上手さだろうけど、純粋に賛同や共感ができないのは、多分アメリカと日本における死生観の違いがあるんだろうな。

私はこの映画にでてくるような男たちのように、ある意味で一直線な人生を歩んでいない。夢を追いかけているとはいっても、一本道を歩いているわけじゃないし、その道程は常にがたついてる。自分が死ぬときのことを想像したことはあるけど、それはやはり理解の範疇を超えているし、10年後どころか1年後の自分さえも分からない、今の私の人生なんてそんなものだ。がむしゃらだといえば恰好は良いけど、その果てになにがあるんかなんて考えるだけでも嫌になる。じゃあ、私の人生はちっとも充実していないのかといえば、そんなことはない。冬コミの原稿を現在やってるけど、それはそれで楽しいし、創作活動に充実感を見出しているというのは本当だろう。
映画の登場人物が求めたのは、充実よりも充足だったのではないか? 死を前にしてのやり残したこと、彼等の人生は満足の度合いはともかく決して不幸せだったわけではないはずだ。形は違えど幸福と言えるときはあったはずであり、時間が経つに連れてそれを忘れていった。修理工が奥さんに対する感想をもらうシーンなど、まさにそうだろう。行き着くところまで来て、彼等は自分の人生に充足感がないことに気づいた。だから旅に出てそれを満たそうとした。金にものを言わせた、ある意味で乱暴な解決法だったんだけど、彼等には病院のベッドや家族のもとで過ごすよりも、ずっと価値有ることだったんだろう。
どうしてこういう映画を日本人は作れないんだろうね。私はアニメ以外の邦画はゴジラぐらいしか面白いものがないと思っているんですが、合間にやっていた時代劇とかなにが面白そうなのかも分からなかった。ありがたみがないんだよね、邦画には。映画としての価値や貴重さが、全然見いだせない。スクリーンで見る気がしないんです。

視聴後はなんとも言い表せない、感慨深い気分に浸っていたのだけど、久々にじっくりと見られる映画に出会うことが出来ました。公開時も予告ぐらいは見ていた気がするのですが、日本の映画は高いですからね。なかなか観に行く機会もなくて。人間としての深みを得たいというのは私が常々考えていることだけど、やっぱりそれを果たすにはある程度の経験と年齢が必要なんだなと実感してしまった。来週はハリー・ポッターがやるらしいけど、そういやハリーでふとした疑問を抱いたんだった。というのも、ハリーは10代の少年少女が出てくる学園モノであり、好いた惚れた、恋した愛した、付き合った別れたが割と頻繁に出てくるけど、そうした行為にラノベとか読む層はどう思っているのかなって。英国と日本の違いといえばそれまでだけど、ちょっと気になっているのです。

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