遂に始まった穹ルートなんですが、予想以上に酷い内容でしたね。前回の予告から考えると信じられないほど共通ルートを引きずっていますけど、まさか、ハルと穹の関係性ではなく奈緒との恋人関係を描いてくるとは思わなかった。ハルの考えは穹からの逃避以外のなんでもないけど、個別ルートで別ヒロインとのデートシーンを見せられるなんて誰が思おうか。手の平を返す準備はしてたけど、これでは返すことも出来ないというか、穹ルートにあるべく重要な部分というのが全部削ぎ落とされてしまった感じがする。

穹シナリオのなんたるかを語るのは、まだ早いと思うので止めておきますけど、まさか日常パートを全部削って狡猾な穹によるハルの攻略作戦を描いてくるとは思わなかった。一緒に料理もしなければ、プールの授業で溺れたハルを助けることもなく、その時点でこれはヨスガノソラじゃなくなってるよね。まあ、元々アニメ版はヨスガノソラを名乗れるような作品ではないし、前の話の時点で決定的になっていたことなんだけど、それでもこの改悪は……どうなんだろう。いつもだったらとことん否定し、批判し、非難するはずなんだけど、なんかそんな気分になれない。
確かにヨスガノソラではないし、春日野穹の話としてこれを認めるわけにはいかないんだけど、逆にまったく別のものとして見てみると、意外と10話って面白い気がするのよ。穹による緻密な計算と、それに気付きつつある奈緒。間に挟まれているハルだけが、自分の気持ちに手一杯で状況を認識することが出来ていないという現実。キャラクターの関係性の組み立てと、そこから構成された話という意味では、10話は今までの話の中でも抜きんでていると思う。キャラが全員原作と別人であるからこそ、客観的な視線で見ることが出来たというか、人の思惑って言うのは絡み合うこともあれば、交わらないときもあるんだね。
ハルは穹の訴えに対し、奈緒とのデートを優先した。しかし、それは果たして穹にとっての敗北だったのだろうか? 奈緒ルートで穹を突き放したときとは明らかに違う、例えそれが嘘であっても穹と約束をしていたという罪悪感がハルにはあった。だからこそ待ち合わせに遅刻してしまうほどギリギリまで悩んでいたし、デート中も相手のことではなく穹のことを考えてしまう。穹を選ばなかったようで、実はなによりも穹を優先して動いているハルがそこにはいた。奈緒は確かに恋人だけど、彼女がこの先どうなるかは考えるまでもないでしょう。

奈緒はハルの気持ちが自分ではない相手、穹に大きく傾いていることに気付き始めていた。私は奈緒がデート中にハルの手を握り損なった時点で、このルートにおける彼女の命運が決まったんだと思った。穹のことを考えているときのハルが好きだという奈緒の言葉は、おそらく嘘ではない。けれど、妹であっても相手は違う女。嫉妬とはいかないまでも、顔を曇らせる程度には思うところもあるだろう。だから奈緒はあまりデートっぽくないことを、あくまで茶化しとしてハルに伝えた。苦笑気味に、それでもフォローすることを忘れずに。でも、そのフォローがいけなかった。奈緒は見たままのことを言っただけなのだろうが、ハルはその言葉に違和感を感じた。何故なら、穹を心配しているハルが凄く優しい顔をしているというのは、逆に言えば奈緒に対してそういった表情を見せることがないということになるのだから。
しかし、奈緒だって黙ってみている分けではなかった。10話の最初で穹に自分たちの関係性を打ち明けようとしたように、奈緒はハルとの仲を完全なものにしようと焦っている節があった。それは穹のことばかり考えているハルに対する危機感なのかも知れないし、穹に認められることで安心感のようなものを得たかったのかも知れない。どちらにせよ、奈緒が春日野家に行って料理がしたいと言いだしたのは、単なる善意からではないことが分かります。牽制しようとしたんでしょうね、ハルと穹の仲を。そして春日野家の敷居を跨ぎ、二人の間に割ってはいることで恋人としての自分を確立させたかったんではないだろうか?
結果として、そうした奈緒の目論見はすべて失敗した。穹は奈緒の一枚上手をいき、孤独感を演出することによって兄妹の、家族の強い絆をハルに再認識させることに成功した。なまじ、穹との約束を破ったという罪悪感もあり、泣いている穹の姿を見たときのハルはさぞ肝が冷えたに違いない。
そしてハルは、すぐさま奈緒を家から帰らせた。なにを相談するわけでもなく、咄嗟に適当なことを並べて、自分から玄関の扉を開けることで奈緒に帰宅を諭した。奈緒がハルや穹の真意をどこまで見抜いていたかは分からないし、あの幸せそうな表情からは気付いていない可能性も高い。けれど、ハルにはそんなことどうでもよかった。穹が一人泣いていると分かった彼は、奈緒の姿が見えなくなるとすぐさま穹の部屋へと飛び込んだ。一瞬前まで一緒にいた恋人のことなど、欠片も頭の中には残っていなかったに違いない。

穹の涙がすべて嘘だとは思えませんが、半分は演出でしょうね。穹は少なくとも、この時点では奈緒の上をいった。ハルを自分の元へ取り戻したのです。玄関に脱ぎ散らかされた靴の描写からも、ハルはどれだけ穹のことを心配し、動揺していたかが分かります。穹はハルが奈緒とデートに行っていたことを知っていた。知った上で、ハルがどのように行動し、反応するのかを試した。そして最終的に、穹は奈緒に勝ったのだ。
ハルは奈緒ではなく、穹に対して気を使った。二人で出掛けていた事実を伏せたのだ。当然、穹はその事実を知っているわけだが、驚いたのは奈緒だろう。彼女の場合、そもそもハルが自分とのデートを穹に黙っていたことを知らないのだから。故に穹はここで大きな行動に出た。自分とハルの空間から、奈緒を排除したのだ。恋人ではなく妹の自分を優先したハルであれば、押し切れることを穹は確信していた。
このときの勝ち誇った穹の表情が堪らないね。奈緒はあくまで大人の対応で流そうとするけど、さすがに形勢が不利になりつつあることに気付いたのか弱音を吐いていた。ハルはそれをフォローするけど、その言葉には説得力の欠片もないのだった。

穹の自慰に関しては規制が多すぎたのでなんとも言えません。ハルの涙は原作と同じ理由なんだろうけど、説明が不足しているせいかアニメだと唐突感があった。穹への想いを自覚した上で、この先どうなるのか……来週が楽しみですね。いや、いい話だったよ。一欠片だってヨスガノソラではないけど。

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