先日、とあるラノベ作家と話していたんですけど、その作家は本当はSF志望なのに流行らないからという理由で萌えエロ系を書いている人なんですよ。まあ、この業界では書きたいものを書けるほうが稀だし、別に珍しいことでもなんでもないんだけど、最近は考え方を変えたのか、ラノベでSFを書くなら今だ! という結論に至ったらしい。180度変わったわけですが、なかなか説得力のある理由も備えていたので、少し話を聞いて見ることにしました。

所謂、ライトノベルというジャンルにおいて、SF小説というのはあまり流行りません。作品自体は色々出ているのですが、人気作という意味では殆どありませんよね。例えば、灼眼のシャナでお馴染みの高橋弥七郎は、デビュー作こそミリタリーアクションSFでしたが、それが鳴かず飛ばずだったから、次は中高生にウケる作品をと言うことで、シャナを書き始めたというのは割と有名な話です。他にも電撃でSFといえば、分かりやすいのでスターシップ・オペレーターズなどがありますけど、あれも未完な上にアニメ化で失敗しましたからね。ラノベでスペースオペラやハードSFというのは、やっぱりウケないんでしょう。それは現在放送中のアニメ、モーレツ宇宙海賊に若い子の支持があまり無いことからも伺えます。
しかし、それとは別にSFという看板外した作品ならどうでしょうか? これは件のラノベ作家が言及していたことなんですが、ジャンルそのものにSFという看板や冠を付けていないものなら、面白い小説として自然に受け入れられていくというのです。確かに、これまでもSF小説であることを宣伝せず、ライトノベルという定義の中でヒットした作品というのは結構あります。例えば、社会現象化したとされる涼宮ハルヒシリーズは、誰がどう読んでもSF小説ですし、受賞こそしませんでしたが星雲賞にもノミネートされたことがある作品です。時間、宇宙、超能力などSFにありきたりなガジェットやギミックを使いつつ、それがSFであるということを表立っては主張しない。故に通常の読者は、ハルヒを特段SF小説として意識せずに読んでいるんですね。

昨年話題になったラノベに、「僕の妹は漢字が読める」というのがありましたけど、あれだってタイトルの奇抜さや絵柄を気にせずに読んでみると、なかなかどうした純粋によく出来たSF小説であることが分かります。私の周りは比較的SF人が多いですが、それなりの評価をしていました。でも、あれにしたって特別SF作品であるとは書かれていませんし、評判となる前にそれを意識して買った人は、殆どいないと思います。まあ、私は山本弘の書評と同じような考えを持っているけど、これはラノベでやるから面白いのであって、SFのパターンとしては、実にありふれた物だったりするんだよね。類似作品は、いくらでもとは言わないまでも、いくつか思い浮かべることが出来るでしょう。
このようにSFとしてはありふれているけど、いざ、ラノベに持って行くと新しく思われるものというのはいくらでもあります。ラノベ作家との話の中でも出ましたが、アニメ作品ながら去年大ヒットを記録したまどか☆マギカは、魔法少女という冠を持ちながら、その中身はただのSF作品であり、しかも内容的に真新しさは感じません。むしろ、SFではありきたりとも言えます。けど、普段萌えアニメしか見ない、読まない人たちにとっては新鮮であり、まったく新しい作品に映るのです。つまり、SFという畑に生えているものを、ラノベという畑に植え直すというわけで、そうすればSFも若い読者に売り込めるのではないかと、そういうことですね。確かにハルヒやマギカが流行った事実を踏まえれば、決して悪い選択や考えではないのだろう。書くなら今だ、という発想に至るのも、分からなくはありません。ましてやSF志望のラノベ作家なら、ここが勝負時とさえ思うでしょう。でも、私はその考えに反対というか、あまり肯定的になれないでいる。

確かにSFという畑を普段覗かない人たちにとって、そこに生えているものは物珍しく、新鮮に映るのかも知れない。読んでみて面白いと、純粋な評価もしてくることでしょう。けど、それは、あくまでラノベという畑に生えている場合ですよね。ラノベ畑なら売れるから、読んでもらえるからと、SF畑にある作品をどんどん移されたら、最終的に空っぽになっちゃうじゃないですか。私はそれが嫌だというか、将来的な不安になってる。しかし、導きだされた答えや見解には、納得せざるを得ないんだよなぁ。いやはやなんともはや、難しい話です。

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