今期のアニメで私が観ているのは、氷菓とこれゾン、それにニャル子さんとFate/Zeroと、なんだか小説原作にラノベ原作が多いですね。単にそういうアニメが沢山作られているだけかも知れませんが、前期と比較すると、あんまり観ていないのかな。しかも、これゾンやFateは2期ですし、ニャル子さんに至っては再アニメ化ですから、純粋な新番組は氷菓以外にないのかもしれない。まあ、どれも相応に面白い作品ではあると思うけど、なにせ全てが原作持ちですから、大体の流れは知っていたりするんですよね。だから、どの作品も内容がどうこうというよりは、アニメとしての部分、つまり絵や音楽に注視して観ているよう気がする。

この中のどれが凄いなんてことを言うつもりはないですが、私の立ち位置的に注目しているのは、やはりニャル子さんでしょうか? 私は神話に対する教養が特別深いわけではありませんが、こういう業界に属するものとして、クトゥルフ神話に関してはそこそこの知識はあるつもりです。まあ、別にニャル子さんはクトゥルフ神話の知識なんてなくても大丈夫だし、むしろ、作中のパロディを理解できた方が楽しめると思うんだけど、問題というか着目すべき点はそこではなくてね。ニャル子さんによって巻き起こされた、昨今のクトゥルフ神話ブームについてなんです。
なにせ今はブームですから、この日記を読んでいる人の中にもクトゥルフについて調べた人はいるかも知れませんが、あれはギリシャ神話とか聖書とか、あるいは北欧神話やインド神話なんか違い、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという作家が書いた小説を元に、その友人の作家たちが作り上げた架空の神話であり、その成立時期も20世紀と、実はまだ100年も経ってなかったりします。サブカルチャーが盛んな日本では、早くからゲーム作品や漫画などを中心に題材とされることが多く、実際にクトゥルフ神話を元に書かれた小説、あるいはクトゥルフ作家と呼ばれる人もいるぐらいですから、メジャーではないにせよ、知る人ぞ知る存在であったとは思います。逆に言えば、一部のマニアやニッチな趣味を持っている人向けだったんですね。現代人はオタクですら、自分の興味のないジャンルの本なんて読みませんから、本来であればクトゥルフ神話は創作された神話体系として、ひっそりではないにせよ、細々と引き継がれていくはずでした。なにせ、一般的にもオタク的にもマイナーな神話なわけですから。

しかし、それがニャル子さんの登場で一変したのです。ギリシャ神話や聖書の天使、あるいは日本書紀に出てくるような八百万の神々については聞きかじったことがあっても、創作神話のことなどなにも知らないオタクたちは、ニャル子さんを観てその元ネタに強い興味を惹かれました。オタクというの元来調べることが好きな人種ですし、設定等を理解することが喜びを覚える傾向にありますから、その嗜好が上手く合致したんでしょう。ニャル子さんをより深く知るために、オタクたちは一斉にクトゥルフ神話系の関連書籍に手を出し始めた。
さて、クトゥルフ神話は架空の神話であることは既に何度も書いたが、解説書や研究所の類が皆無なわけではない。けれど、元々がマイナーであることに加えて、今日日のライトオタク向けの作品が皆無であったことから、簡単に読める書籍というのは、あまりないんですね。入門書と銘打っているものが一冊もないとは言いませんが、初心者はこれを読めという本が認知されていなかったのも事実であり、そうなってくるとオタクに限らず、人はとりあえず、一番有名で、それっぽい本を選ぶことになります。結果、国書刊行会などが何十年も前に出したクトゥルフ神話系の本が、2012年になって重版が掛かるなど、出版会は今、空前のクトゥルフ神話ブームとなったのです。出せば売れる、というほどではないのかも知れませんが、とりあえず外れることがないうレベルには来ています。なにせ、元来市場としては規模の小さかったジャンルですし、オタク向け、あるいはライトユーザー層に対する本は、今だからこそ出せるという強みもあります。ラノベアニメ一つでこんなに盛り上がるなんて、まったく大した話だと思いませんか。

もっとも、オタクも含めて日本人というのは飽きっぽい生き物ですし、ブームは収束し、流行は廃れるものだから、あるいは今年に限定されたささやかな現象で終わるのかも知れません。ですが、事神話に関して得られた知識というのは決して無駄にはならないはずであり、特になんらかの創作に身を置く人であるのなら、大事にしていって欲しいと思います。私の友人も昨今のブームに影響されてか、クトゥルフ神話系の本を読みあさっているけど、決してニャル子さんが好きだというわけではないらしい。まあ、キッカケを必ずしも尊重する必要はないけど、原典をより深く知ると、萌え系ラノベに満足できなくなることはあるのかも知れませんね。

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