イモウトノカタチ-鏤められた伏線と、たためない風呂敷-
2012年9月8日 イモウトノカタチ
イモウトノカタチが発売されてから一週間、公式サイトが更新されてシナリオ担当のなつかぜとおるによる更新終了宣言が行われました。いや、そこまでハッキリしたものじゃないんだけ ど、とりあえず今回のスタッフ日記でイモウトノカタチのサイトは一区切り着けるそうです。CUBEのyour diaryが発売後もずっと更新を続け、そのままメディアミックス展開へと繋げたのに比べると、こっちは物凄くあっさりしてますね。これが待望されていた Sphere完全新作の幕引きなのかと思うと、流石に寂しさを覚えずにはいられません。
さて、今日はイモウトノカタチにおいて丸投げされて放置状態になった伏線について書いていこうと思います。考察と言う程のものじゃないけど、全 ルート終わってみると、かなりの量の伏線や謎が残ったままになっていますからね。自分のためにも、これは少し整理してまとめておく必要があるかな と思いまして。何かに役立つかはともかく、あればあるで便利だろうから。
しかし、作中に鏤められた伏線が回収されないってのは間々あることだけど、殆ど明らかにされないってのは久しぶりじゃないだろうか? 雪人の妹が 誰なのかとか、雪人と美優樹の本名ぐらいは流石に分かったけど、それにしたって詳細が明かされたわけじゃないんだよね。兄妹が判明して、本名が分かって、け ど、それだけでしかない。どんな家族だったのかとか、両親はどんな人だったのかとか、そういった部分には遂に触れず仕舞いでした。これはあやかや 千毬も同じことであり、何らかの事実が明らかになっても、その先に進まないもんだから、すべてが中途半端に見えてしまう。アフターエピソードで回 収されるわけでもなく、ただ設定として存在しているだけなので、そこに広がりとか、結論を見出せないんだよね。雪人とあやかの両親については死ん でいる可能性が高いから仕方ないにしても、千毬の両親は健在なわけじゃないですか? でも、雪人がそういった裏事情よりも、彼の個人的な家族論を 優先させてしまったために、大事なことが何一つ見えてこなかった。他のルートにも高階夫妻が出てくるならまだしも、あの人たちってあそこにしか出 てきませんからね……まあ、前置きはこれぐらいにして、伏線の話に入りましょうか。
美馬雪人と瀬名美優樹の過去
雪人と美優樹が兄妹であることが発覚するのは、美優樹ルートの終盤と、真結希&ミータルートの序盤になります。どちらもタイムカプセルという過去 の遺物によって発覚するわけですが、無論その後の再調査によって裏付けも行われています。ここで問題なのは、二人が兄妹ならば、どうして最初に災 害受付センターで調べた際、兄妹であることが発覚しなかったのか? ということです。
馬鹿な雪人はそう言ったことに無関心というか、まるで気付いていませんでしたが、美優樹は何故もっと早くDNA検査で判明しなかったのかと疑問を 感じているシーンがあります。あの施設を取り仕切っているのは理事長のはずですが、彼女が嘘を吐いていたとは考えにくい。また、あやかルートにお ける順也の雪人の情報にはプロテクトが掛かっていたという発言からも、何者かが意図 的に神志那兄妹の情報を封印していた可能性が高いんです。そうすれば、最初の段階で二人が兄妹であると判明しなかったことにも説明が付きますし、 それ以外にはないでしょう。
けれど、何故そんな封印が施されていたのか? という話になると、途端にこの作品は口を閉ざしてしまう。あやかルートは自分のことよりもあやかの 問題を優先にしたから仕方ないにしても、美優樹ルートや、最終章である真結希ルートでさえも、そうした謎には一切触れることがありませんでした。 唯一、真結希ルートで理事長が神志那夫妻について言及するシーンがありましたけど、それだけでは何とも言えないし、そもそも兄妹のデータを消すこ とにどれだけの意味が、なんの意図があるのか、という疑問が残ります。よっぽど兄妹に凄い秘密があるとかなら分かりますが、真結希以外は平凡とは 言えないまでも、普通に生きてきたわけだしね。あるいは普通に生きて欲しいが為に、そうした処置を施したと言う可能性もあるけど、そうしたら今度 は何を隠したのか? という謎が出てくるわけで……神志那兄妹って何者なんだろうね。
神志那夫妻の研究内容とは?
タイムカプセルを埋めるシーンと、手紙ぐらいでしか出番のない雪人たちの両親、神志那夫妻ですけど、この人たちは環境特区で何をしていたんでしょ うか? 自然関係の研究や実験をしていた、と言うことにはなっていますが、具体的な内容は勿論明かされていません。言葉の端々から、自分たちの子 供や、次世代に対して多くの自然を残すことを目標にしていたことが分かりますけど、 その内容が何であるかまでは語られていないんですね。
当時の環境特区は自然制御型の研究や実験を繰り返しており、人工的に自然環境を制御ないし操作しようとしていたことが覗えます。理事長はそれを傲 慢であると良い、保守派そのために天罰として災害が起こったとされていますが、千毬ルートの高階夫妻の反応から、あの災害は人災であったことが分 かります。そして、高階夫妻が深く関わっていたであろうことも。では、神志那夫妻もまた災害の原因を作った研究者だったのでしょうか? 私は高階 利夫の反応から、その可能性は低いと思います。彼は明らかに自分の過ちへ神志那夫妻を巻き込んでしまったことを悔やんでいましたし、彼らがどれほ どのレベルで事に関わっていたかはともかく、神志那夫妻が直接の原因なら、むしろその息子である雪人を罵倒するはずです。子供に罪はないと分かっ ていても、良い気分はしないだろうし、ましてやそんな相手に娘の千毬を託したりはしないのではないか?
それじゃあ、神志那夫妻はどんな研究をしていたんだと言うことになるけど……やっぱり、ナノマシン関係なんじゃないかな、と思う。環境特区におい て行われていた研究、その内容を知っている人は多くても、全容を理解している人は意外に少なく、「ロボットがどうの」とか曖昧な答えしか返ってきません。実験地区で使われて いたロボットが何であるのか、その詳細は結局明らかになりませんでした。しかし、ナノマシンについては真結希という被害者がいる時点で、何らかの 形で実験に使用されていたことが分かります。
ナノマシンを使った自然制御という考えは、なんともありがちであり、大方これ が正解なんだろうけど、私は敢えて別の可能性を追求したい。そしてそれは、この次の謎にも関わってくることになります。
清宮真結希とナノマシンの関係
これは伏線と言うより、作中に残された謎みたいなものです。即ち、真結希の身体を冒し続けるナノマシンとは、一体どのような経緯で彼女の中に侵入 したのか? そもそもどうして彼女は全身麻痺になどなってしまったのか、ということ。真結希の説明では、自分は災害時に負った怪我か何かの影響で 感染症になっており、それで全身麻痺状態になったと言うことになっていますが、この説明には幾つかの疑問が残ります。
まず、仮に実験地区におけるナノマシンの使用法が前述のように自然や環境制御のためだとして、それが失敗したことによって真結希が空気中ないし大 気中のナノマシンを浴びてしまった、と考えることは確かに出来ます。出来ますが、何故真結希だけなんでしょうか? つまり、あの災害に被災して生き残った少年 少女というのは、言ってしまえば結構な数がいます。主人公である雪人や、ヒロインである美優樹や千毬、それにあやかだってそうですし、聡里や静 夏、晴哉と言った面々も又、あの災害から生還した子供たちであることに変わりありません。だから、真結希が空気中にばらまかれたナノマシンを浴び てあの症状になったというなら、他にも多くの事例がないとおかしいんですよ。それこそ、ソルティレイのプロシードみたいにね。
しかし、作中に登場する全身麻痺の患者は真結希だけであり、彼女は病院内でも存在を秘匿されるほど特殊な患者だった。このことから、ナノマシンに 侵食された少女は彼女だけしかいないのではないか、と言うことが読み取れます。本当に偶然、何かの事情で真結希だけがこうした症状になったという 可能性は、無論否定できるものじゃないけど、私はむしろ、ナノマシンは最初から真結希の中に入っていたのではないかと考えいたりします。どういうこ とかというと、ナノマシンを研究していた神志那夫妻は、実の娘に対して人体実験を行っ たのではないかということです。
もし仮に実験地区で研究されていたナノマシンが、対人用だとしたら? 人工的に制御された自然環境の中で、素早く人が適応する ための補助装置のような役割だったのだとすれば、どうでしょうか? 体内に打ち込まれたナノマシンが神経組織に作用することで、急激な環境変化に も即座に対応できる肉体を作り出す……神志那夫妻がそういった意図でナノマシンを研究し、その臨床実験に我が子を利用したのだとすれば、真結希の 体内にナノマシンがあることも納得が行くと思うんだよね。災害の影響か、あるいはそれ以前の問題で実験は失敗し、それで真結希は全身麻痺になった のだとすれば、一応の説明も付く。まあ、そうなると神志那夫妻はそんなに良い親でないってことになるんだけど、雪人や美優樹の親だしね。どんな人 かは分かったもんじゃありませんよ。
あやかの本当の両親、聡里の実の兄は?
あやかルートにおいて、あやかは実は澄稀家の養女であり、実の娘でないことが分かります。シナリオとしては単純ですが、そうなってくると気になる のは本当の両親、家族はどうなっているのか? ということです。あやかの義理の祖母、つまり澄稀家のおばあさんは街の有力者であり、あやかを始め とした災害孤児たちを引き取るなど、震災後の慈善活動には積極的でした。これは実験に関わっていた澄稀製薬の人間として責任を感じていたからとい うことだけど、当然、あやかや順也の家族も探したはずです。
あやかの説明から、おばあちゃんが亡くなったのはそんなに前のことではなく、ここ数年の出来事であることが分かります。少なくともあやかとは10 年以上暮らしていたことになり、それだけの期間があっても見つけられなかったのであれば、残念ながらあやかの両親は死んでいると考えたほうが自然 でしょう。子供ならまだしも、大人じゃね……
勿論、両親は存命で高階夫妻のようにどこかしら引き篭もっていると考えることも、出来なくはないんでしょうけど、あやかの両親に関しては何をやっ ていた人なのかとか、そういう情報が少ないですからね。アフターエピソードで出てくるようなこともなかったし、そもそもあやか自身、あまり本当の 家族に興味を持っていない。千毬とは違う意味で、彼女は澄稀としての人生を今まで歩んできたわけだから、今更本当の名前とか家族とか言われても、 容易に受け入れがたく、また、実感することが出来ないんでしょう。しかも、あやかの場合は、そうした自身の境遇と家族との向き合い方がテーマみたいなものだから、ここで本当の家族が出てくれ ば却って混乱を招くだけであり、たとえこの作品に今後があったとしても、登場することは恐らく無いと思います。
次に聡里の実兄ですが、彼女はそもそもこの子が主人公の妹なんじゃないか? という分かりやすいフェイクとして用意されたキャラです。要は雪人の妹探しにおける当て馬のようなもので、サブキャラと言うこともあって設定を掘り下げる必要がないんですね。あるいはFD等が出るなら、「赤の他人でも関係ない、俺が聡里ちゃんのお兄ちゃんになってやるぜ!」ぐらい雪人なら言いそうだけど、それだと本当のお兄さんがあまりにも不憫だし、生死はともかくあまり触れられないんじゃないかなと。
喫茶店の店長の家族は?
あやかルートで彼女がバイトを始める喫茶店の店長、もう随分なじいさんですが、この人は災害で家族を失っています。一応、生死は分からないので行方不明扱いらしいけど、そういやイモウトノカタチの世界観では行方不明者の失踪宣告ってどうなってるんでしょうか? 大抵は7年で死亡扱いされますけど、大規模災害だとまた違うのかな……近未来設定の世界観に現実の価値観を持ち込んで、どれほどの意味があるのかという話でもありますが。
とにかく、あやかのバイト先の店長にも行方不明の家族がいて、私はその会話や台詞から、この爺さんこそ雪人たちの祖父もしくはあやかの祖父ではないか、と考えていました。理由としては、そもそも喫茶店自体が研究所に勤める息子夫婦が、そこを辞めて、のんびり店をやりたいからと言って建てたものだったそうです。研究所とは即ち実験地区のことであり、雪人の両親は夫婦揃って研究者でしたから、これに当てはまります。
しかも、爺さん店長は「孫がもし今も生きているなら、そこのお兄さんとあやかちゃんぐらいの歳かねぇ……」と言いました。息子夫婦は家族で被災して行方不明になっていたんですね。
あやかの着ているメイド服は息子夫婦が娘のために用意したものらしいですが、仮に爺さんの孫が孫娘一人だとするなら、わざわざ雪人のことなど触れず、あやかと同い年ぐらいとだけ言えば良いだけの話です。それが雪人のことも触れる辺り、爺さんの孫は兄妹だったと考えるのが自然でしょう。夫婦揃って実験地区の研究員で、子供は男女の兄妹。明確な人数などには触れていませんが、雪人たちと重なる部分が、あまりにも多すぎるような気がします。勿論、王道展開としてあやかの祖父であるという可能性も捨てきれませんが、可能性としては雪人たちの方に天秤が傾いているように思える。もっとも、結局最後まで言及されなかったので、真相は全く分からないんだけど。
理事長の目的と正体
この人も何か裏がありそうな感じがして、一切それを明かさないまま退場してしまいましたね。無論、やっていることは慈善事業ですし、災害被災者を、特に子供たちを助けたいという考えは立派ですから、それ自体は何の問題もないのだけど……本当にそれだけなのか? という疑惑のようなものはあります。神志那夫妻への言及や、メディカルセンターへの興味、澄稀家の娘であるあやかへの接触など、理事長のやることには表裏を感じさせるものが多くてさ。単純な慚愧の念というよりは、あの災害を起こした人達への言い知れぬ感情みたいなものを抱えている気がする。実は悪人でした、なんてことはないでしょうけど、最終的な目的は、やはり災害の原因を究明することでしょうか。真相を明らかにして、その後どうするのか……悪い方向に転ぶような人ではないだろうが、もう少し掘り下げてくれれば、災害関係の伏線や謎も、幾らか解明できたかも知れないのにね。
ミータを奪取し、改造した組織の正体
真結希アフターにおいて、いつの間にか消えていたミータに対する追っ手。街中に人員を配置し、慰霊祭の会場にまで乗り込んでくる常識知らずの組織の正体は、結局分からないままに終わってしまいました。最先端ロボットであるミータを改造できる技術力と技術者を有していることは間違いありませんが、その改造内容はナノマシンの制御機器を取り付けるという、意図不明のものでした。真結希を助けるために行ったと考えれば、あるいは雪人たちの両親か? と考えられなくもないけど、彼らにさてミータを改造するだけの力があるとは思えないし、一介の研究者夫妻が何故大量の黒服を従える組織になど属しているのか、という疑問もあります。
ミータを奪取した組織がイコールで雪人たちの情報を消したり、ロックを施したりした連中なのかは分かりませんが、その可能性は決して低くないと思う。ミータに行われた改造は真結希に対して影響があるものだし……そうなると、やっぱり両親なのだろうか。神志那夫妻も一応生死不明だけど、高階夫妻の発言から、死んでいると考える方が自然だと思うんだけどな。ちなみに、ミータを改造したのは高階夫妻である、と言う考えは間違いです。何故なら、彼らは名前こそ出てきませんが、ミータルートにもちゃんと登場しており、ミータがぶっ倒れた後に奇跡の生存者としてテレビ番組で触れられているからです。彼らがその後どんな感じになったのかは分かりませんけど、ミータを奪取して改造するような環境にはいなかったと考えるのが普通ではないか。
まあ、街中に人員を配置し、来賓も多いくカメラも回っているであろう慰霊祭に乗り込んでこれるような組織が、ミータを誘拐して真結希の病気を治す改造を行い、雪人や美優樹のデータに対する細工施したというのが、そもそも理解不能なんだけど……何なんだろうか。
ざっと書いてみたけど、まあ、こんなところでしょうか? ミータルートへ入る前に書いた奴も含めて、これだけの伏線がイモウトノカタチには残されてるんですね。しかも、細々とした謎はまだまだ沢山あって、それらも放置されたまま作品は終わっています。アフターエピソードで回収されるわけもなく、そもそも災害なんて設定必要だったのか、と言わざるを得ません。いや、災害自体は必要だったのだろうけど、そこにSF的要素を持ち込む理由はないよね。言ってしまえば、efみたいな感じにも出来たわけだし、それで話も十分通じるし。何でこんな、風呂敷のたためない設定にしちゃったんだろう……たためないってことはないのか。ちゃんと書けば、それは可能だったはず。あれだけ時間があったのに、風呂敷たためなかったというのはちょっと深刻な問題ですね。これからSphereはどうするんだろう。
さて、今日はイモウトノカタチにおいて丸投げされて放置状態になった伏線について書いていこうと思います。考察と言う程のものじゃないけど、全 ルート終わってみると、かなりの量の伏線や謎が残ったままになっていますからね。自分のためにも、これは少し整理してまとめておく必要があるかな と思いまして。何かに役立つかはともかく、あればあるで便利だろうから。
しかし、作中に鏤められた伏線が回収されないってのは間々あることだけど、殆ど明らかにされないってのは久しぶりじゃないだろうか? 雪人の妹が 誰なのかとか、雪人と美優樹の本名ぐらいは流石に分かったけど、それにしたって詳細が明かされたわけじゃないんだよね。兄妹が判明して、本名が分かって、け ど、それだけでしかない。どんな家族だったのかとか、両親はどんな人だったのかとか、そういった部分には遂に触れず仕舞いでした。これはあやかや 千毬も同じことであり、何らかの事実が明らかになっても、その先に進まないもんだから、すべてが中途半端に見えてしまう。アフターエピソードで回 収されるわけでもなく、ただ設定として存在しているだけなので、そこに広がりとか、結論を見出せないんだよね。雪人とあやかの両親については死ん でいる可能性が高いから仕方ないにしても、千毬の両親は健在なわけじゃないですか? でも、雪人がそういった裏事情よりも、彼の個人的な家族論を 優先させてしまったために、大事なことが何一つ見えてこなかった。他のルートにも高階夫妻が出てくるならまだしも、あの人たちってあそこにしか出 てきませんからね……まあ、前置きはこれぐらいにして、伏線の話に入りましょうか。
美馬雪人と瀬名美優樹の過去
雪人と美優樹が兄妹であることが発覚するのは、美優樹ルートの終盤と、真結希&ミータルートの序盤になります。どちらもタイムカプセルという過去 の遺物によって発覚するわけですが、無論その後の再調査によって裏付けも行われています。ここで問題なのは、二人が兄妹ならば、どうして最初に災 害受付センターで調べた際、兄妹であることが発覚しなかったのか? ということです。
馬鹿な雪人はそう言ったことに無関心というか、まるで気付いていませんでしたが、美優樹は何故もっと早くDNA検査で判明しなかったのかと疑問を 感じているシーンがあります。あの施設を取り仕切っているのは理事長のはずですが、彼女が嘘を吐いていたとは考えにくい。また、あやかルートにお ける順也の雪人の情報にはプロテクトが掛かっていたという発言からも、何者かが意図 的に神志那兄妹の情報を封印していた可能性が高いんです。そうすれば、最初の段階で二人が兄妹であると判明しなかったことにも説明が付きますし、 それ以外にはないでしょう。
けれど、何故そんな封印が施されていたのか? という話になると、途端にこの作品は口を閉ざしてしまう。あやかルートは自分のことよりもあやかの 問題を優先にしたから仕方ないにしても、美優樹ルートや、最終章である真結希ルートでさえも、そうした謎には一切触れることがありませんでした。 唯一、真結希ルートで理事長が神志那夫妻について言及するシーンがありましたけど、それだけでは何とも言えないし、そもそも兄妹のデータを消すこ とにどれだけの意味が、なんの意図があるのか、という疑問が残ります。よっぽど兄妹に凄い秘密があるとかなら分かりますが、真結希以外は平凡とは 言えないまでも、普通に生きてきたわけだしね。あるいは普通に生きて欲しいが為に、そうした処置を施したと言う可能性もあるけど、そうしたら今度 は何を隠したのか? という謎が出てくるわけで……神志那兄妹って何者なんだろうね。
神志那夫妻の研究内容とは?
タイムカプセルを埋めるシーンと、手紙ぐらいでしか出番のない雪人たちの両親、神志那夫妻ですけど、この人たちは環境特区で何をしていたんでしょ うか? 自然関係の研究や実験をしていた、と言うことにはなっていますが、具体的な内容は勿論明かされていません。言葉の端々から、自分たちの子 供や、次世代に対して多くの自然を残すことを目標にしていたことが分かりますけど、 その内容が何であるかまでは語られていないんですね。
当時の環境特区は自然制御型の研究や実験を繰り返しており、人工的に自然環境を制御ないし操作しようとしていたことが覗えます。理事長はそれを傲 慢であると良い、保守派そのために天罰として災害が起こったとされていますが、千毬ルートの高階夫妻の反応から、あの災害は人災であったことが分 かります。そして、高階夫妻が深く関わっていたであろうことも。では、神志那夫妻もまた災害の原因を作った研究者だったのでしょうか? 私は高階 利夫の反応から、その可能性は低いと思います。彼は明らかに自分の過ちへ神志那夫妻を巻き込んでしまったことを悔やんでいましたし、彼らがどれほ どのレベルで事に関わっていたかはともかく、神志那夫妻が直接の原因なら、むしろその息子である雪人を罵倒するはずです。子供に罪はないと分かっ ていても、良い気分はしないだろうし、ましてやそんな相手に娘の千毬を託したりはしないのではないか?
それじゃあ、神志那夫妻はどんな研究をしていたんだと言うことになるけど……やっぱり、ナノマシン関係なんじゃないかな、と思う。環境特区におい て行われていた研究、その内容を知っている人は多くても、全容を理解している人は意外に少なく、「ロボットがどうの」とか曖昧な答えしか返ってきません。実験地区で使われて いたロボットが何であるのか、その詳細は結局明らかになりませんでした。しかし、ナノマシンについては真結希という被害者がいる時点で、何らかの 形で実験に使用されていたことが分かります。
ナノマシンを使った自然制御という考えは、なんともありがちであり、大方これ が正解なんだろうけど、私は敢えて別の可能性を追求したい。そしてそれは、この次の謎にも関わってくることになります。
清宮真結希とナノマシンの関係
これは伏線と言うより、作中に残された謎みたいなものです。即ち、真結希の身体を冒し続けるナノマシンとは、一体どのような経緯で彼女の中に侵入 したのか? そもそもどうして彼女は全身麻痺になどなってしまったのか、ということ。真結希の説明では、自分は災害時に負った怪我か何かの影響で 感染症になっており、それで全身麻痺状態になったと言うことになっていますが、この説明には幾つかの疑問が残ります。
まず、仮に実験地区におけるナノマシンの使用法が前述のように自然や環境制御のためだとして、それが失敗したことによって真結希が空気中ないし大 気中のナノマシンを浴びてしまった、と考えることは確かに出来ます。出来ますが、何故真結希だけなんでしょうか? つまり、あの災害に被災して生き残った少年 少女というのは、言ってしまえば結構な数がいます。主人公である雪人や、ヒロインである美優樹や千毬、それにあやかだってそうですし、聡里や静 夏、晴哉と言った面々も又、あの災害から生還した子供たちであることに変わりありません。だから、真結希が空気中にばらまかれたナノマシンを浴び てあの症状になったというなら、他にも多くの事例がないとおかしいんですよ。それこそ、ソルティレイのプロシードみたいにね。
しかし、作中に登場する全身麻痺の患者は真結希だけであり、彼女は病院内でも存在を秘匿されるほど特殊な患者だった。このことから、ナノマシンに 侵食された少女は彼女だけしかいないのではないか、と言うことが読み取れます。本当に偶然、何かの事情で真結希だけがこうした症状になったという 可能性は、無論否定できるものじゃないけど、私はむしろ、ナノマシンは最初から真結希の中に入っていたのではないかと考えいたりします。どういうこ とかというと、ナノマシンを研究していた神志那夫妻は、実の娘に対して人体実験を行っ たのではないかということです。
もし仮に実験地区で研究されていたナノマシンが、対人用だとしたら? 人工的に制御された自然環境の中で、素早く人が適応する ための補助装置のような役割だったのだとすれば、どうでしょうか? 体内に打ち込まれたナノマシンが神経組織に作用することで、急激な環境変化に も即座に対応できる肉体を作り出す……神志那夫妻がそういった意図でナノマシンを研究し、その臨床実験に我が子を利用したのだとすれば、真結希の 体内にナノマシンがあることも納得が行くと思うんだよね。災害の影響か、あるいはそれ以前の問題で実験は失敗し、それで真結希は全身麻痺になった のだとすれば、一応の説明も付く。まあ、そうなると神志那夫妻はそんなに良い親でないってことになるんだけど、雪人や美優樹の親だしね。どんな人 かは分かったもんじゃありませんよ。
あやかの本当の両親、聡里の実の兄は?
あやかルートにおいて、あやかは実は澄稀家の養女であり、実の娘でないことが分かります。シナリオとしては単純ですが、そうなってくると気になる のは本当の両親、家族はどうなっているのか? ということです。あやかの義理の祖母、つまり澄稀家のおばあさんは街の有力者であり、あやかを始め とした災害孤児たちを引き取るなど、震災後の慈善活動には積極的でした。これは実験に関わっていた澄稀製薬の人間として責任を感じていたからとい うことだけど、当然、あやかや順也の家族も探したはずです。
あやかの説明から、おばあちゃんが亡くなったのはそんなに前のことではなく、ここ数年の出来事であることが分かります。少なくともあやかとは10 年以上暮らしていたことになり、それだけの期間があっても見つけられなかったのであれば、残念ながらあやかの両親は死んでいると考えたほうが自然 でしょう。子供ならまだしも、大人じゃね……
勿論、両親は存命で高階夫妻のようにどこかしら引き篭もっていると考えることも、出来なくはないんでしょうけど、あやかの両親に関しては何をやっ ていた人なのかとか、そういう情報が少ないですからね。アフターエピソードで出てくるようなこともなかったし、そもそもあやか自身、あまり本当の 家族に興味を持っていない。千毬とは違う意味で、彼女は澄稀としての人生を今まで歩んできたわけだから、今更本当の名前とか家族とか言われても、 容易に受け入れがたく、また、実感することが出来ないんでしょう。しかも、あやかの場合は、そうした自身の境遇と家族との向き合い方がテーマみたいなものだから、ここで本当の家族が出てくれ ば却って混乱を招くだけであり、たとえこの作品に今後があったとしても、登場することは恐らく無いと思います。
次に聡里の実兄ですが、彼女はそもそもこの子が主人公の妹なんじゃないか? という分かりやすいフェイクとして用意されたキャラです。要は雪人の妹探しにおける当て馬のようなもので、サブキャラと言うこともあって設定を掘り下げる必要がないんですね。あるいはFD等が出るなら、「赤の他人でも関係ない、俺が聡里ちゃんのお兄ちゃんになってやるぜ!」ぐらい雪人なら言いそうだけど、それだと本当のお兄さんがあまりにも不憫だし、生死はともかくあまり触れられないんじゃないかなと。
喫茶店の店長の家族は?
あやかルートで彼女がバイトを始める喫茶店の店長、もう随分なじいさんですが、この人は災害で家族を失っています。一応、生死は分からないので行方不明扱いらしいけど、そういやイモウトノカタチの世界観では行方不明者の失踪宣告ってどうなってるんでしょうか? 大抵は7年で死亡扱いされますけど、大規模災害だとまた違うのかな……近未来設定の世界観に現実の価値観を持ち込んで、どれほどの意味があるのかという話でもありますが。
とにかく、あやかのバイト先の店長にも行方不明の家族がいて、私はその会話や台詞から、この爺さんこそ雪人たちの祖父もしくはあやかの祖父ではないか、と考えていました。理由としては、そもそも喫茶店自体が研究所に勤める息子夫婦が、そこを辞めて、のんびり店をやりたいからと言って建てたものだったそうです。研究所とは即ち実験地区のことであり、雪人の両親は夫婦揃って研究者でしたから、これに当てはまります。
しかも、爺さん店長は「孫がもし今も生きているなら、そこのお兄さんとあやかちゃんぐらいの歳かねぇ……」と言いました。息子夫婦は家族で被災して行方不明になっていたんですね。
あやかの着ているメイド服は息子夫婦が娘のために用意したものらしいですが、仮に爺さんの孫が孫娘一人だとするなら、わざわざ雪人のことなど触れず、あやかと同い年ぐらいとだけ言えば良いだけの話です。それが雪人のことも触れる辺り、爺さんの孫は兄妹だったと考えるのが自然でしょう。夫婦揃って実験地区の研究員で、子供は男女の兄妹。明確な人数などには触れていませんが、雪人たちと重なる部分が、あまりにも多すぎるような気がします。勿論、王道展開としてあやかの祖父であるという可能性も捨てきれませんが、可能性としては雪人たちの方に天秤が傾いているように思える。もっとも、結局最後まで言及されなかったので、真相は全く分からないんだけど。
理事長の目的と正体
この人も何か裏がありそうな感じがして、一切それを明かさないまま退場してしまいましたね。無論、やっていることは慈善事業ですし、災害被災者を、特に子供たちを助けたいという考えは立派ですから、それ自体は何の問題もないのだけど……本当にそれだけなのか? という疑惑のようなものはあります。神志那夫妻への言及や、メディカルセンターへの興味、澄稀家の娘であるあやかへの接触など、理事長のやることには表裏を感じさせるものが多くてさ。単純な慚愧の念というよりは、あの災害を起こした人達への言い知れぬ感情みたいなものを抱えている気がする。実は悪人でした、なんてことはないでしょうけど、最終的な目的は、やはり災害の原因を究明することでしょうか。真相を明らかにして、その後どうするのか……悪い方向に転ぶような人ではないだろうが、もう少し掘り下げてくれれば、災害関係の伏線や謎も、幾らか解明できたかも知れないのにね。
ミータを奪取し、改造した組織の正体
真結希アフターにおいて、いつの間にか消えていたミータに対する追っ手。街中に人員を配置し、慰霊祭の会場にまで乗り込んでくる常識知らずの組織の正体は、結局分からないままに終わってしまいました。最先端ロボットであるミータを改造できる技術力と技術者を有していることは間違いありませんが、その改造内容はナノマシンの制御機器を取り付けるという、意図不明のものでした。真結希を助けるために行ったと考えれば、あるいは雪人たちの両親か? と考えられなくもないけど、彼らにさてミータを改造するだけの力があるとは思えないし、一介の研究者夫妻が何故大量の黒服を従える組織になど属しているのか、という疑問もあります。
ミータを奪取した組織がイコールで雪人たちの情報を消したり、ロックを施したりした連中なのかは分かりませんが、その可能性は決して低くないと思う。ミータに行われた改造は真結希に対して影響があるものだし……そうなると、やっぱり両親なのだろうか。神志那夫妻も一応生死不明だけど、高階夫妻の発言から、死んでいると考える方が自然だと思うんだけどな。ちなみに、ミータを改造したのは高階夫妻である、と言う考えは間違いです。何故なら、彼らは名前こそ出てきませんが、ミータルートにもちゃんと登場しており、ミータがぶっ倒れた後に奇跡の生存者としてテレビ番組で触れられているからです。彼らがその後どんな感じになったのかは分かりませんけど、ミータを奪取して改造するような環境にはいなかったと考えるのが普通ではないか。
まあ、街中に人員を配置し、来賓も多いくカメラも回っているであろう慰霊祭に乗り込んでこれるような組織が、ミータを誘拐して真結希の病気を治す改造を行い、雪人や美優樹のデータに対する細工施したというのが、そもそも理解不能なんだけど……何なんだろうか。
ざっと書いてみたけど、まあ、こんなところでしょうか? ミータルートへ入る前に書いた奴も含めて、これだけの伏線がイモウトノカタチには残されてるんですね。しかも、細々とした謎はまだまだ沢山あって、それらも放置されたまま作品は終わっています。アフターエピソードで回収されるわけもなく、そもそも災害なんて設定必要だったのか、と言わざるを得ません。いや、災害自体は必要だったのだろうけど、そこにSF的要素を持ち込む理由はないよね。言ってしまえば、efみたいな感じにも出来たわけだし、それで話も十分通じるし。何でこんな、風呂敷のたためない設定にしちゃったんだろう……たためないってことはないのか。ちゃんと書けば、それは可能だったはず。あれだけ時間があったのに、風呂敷たためなかったというのはちょっと深刻な問題ですね。これからSphereはどうするんだろう。
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